「流浪の月」をU−NEXTにて観ました。
ここのところ鬱映画(日本)を続けていたので明るいものをー🎵
とも思ったのですが、時間が2時間30分と結構な長さの作品であったのと、たまたま用事もなく一気に見られるのは今日しかないと思ったので観ました。
元々予告から気になっていた映画ではあったので前知識は少しだけあったのですが想像を超えてきました。
こちらもまた原作があります。凪良ゆうさんの小説です。
原作とは違っている部分も多く、ちょっと物足りない感があるという評価も多いですね。
そしてU−NEXTだけかな?カット部分を監督が説明してくれるおまけ付きの配信となっていました。それを含むとものすごい長さになるんで本編のみの拝見ということでお許しを。
まず大まかなあらすじとしては
更紗(さらさ)という少女は10歳の時に母親が自分を手放し叔母の家に引き取られましたが、その家の息子の孝弘(たかひろ)から性的虐待を受けるようになり叔母の家に帰りたくないと1人俯いて公園で本を読んでいました。
雨が降り出しても帰る気配のない更紗に傘をさしかけ「うちに来る?」と問いかけたのは孤独な大学生の文(ふみ・松坂桃李)でした。
文との二人の生活でようやく伸び伸びと安らげる場所を得たと思っていた更紗でしたが、誰かの通報があったのか、TVにも更紗の行方不明の報道があり、警察に「誘拐」事件として扱われて文は逮捕、少年院へと送られてしまいました。
15年後。
更紗(広瀬すず)もやがて大人になり亮(りょう・横浜流星)という恋人と同棲中、結婚の話も出ていました。
更紗は過去の誘拐事件で、自分は文に誘拐されたのではないし、ましてや叔母の家で孝弘に受けた虐待を話すこともできず、文に酷いことをされたわけでもないと警察にも言えなかったという後悔を抱えたまま生活していました。
バイト先でも「可哀想な女の子」という扱いを受けていましたが、その事件について詮索されることには慣れたという感じで応対してきました。
そのバイト先の飲み会の後に、派手だけど気さくな同僚の安西佳菜子と飲み直そうと訪ねた店はコーヒーしか出さない変わった店でした。
そしてそこには、あの文がいたのです。
ここからネタバレあります、注意。
医療少年院を出て自分の店を開いた文の店では、文も更紗も知らない人同士のように振る舞いましたが、ある日、彼氏の亮に嘘をついてまで文の店に通っていたことがバレてしまいます。
亮は実は束縛心が強く、やがては嫉妬のあまり更紗に暴力をふるい文の存在をネットにばらしたりと更紗の思っていたよりもずっと悪い方向へと運命が再び回り始めてしまいます。
更紗は文と暮らした自由で眩しく楽しかった時間を懐かしみ、文に接近しますが文には谷あゆみ(多部未華子)という恋人らしき人が存在しました。
それでも文にどうしても惹かれていく更紗。
ある日、亮にひどい暴力を振るわれた更紗は家を飛び出し、文の店の近くで座り込みます。
文もずっと更紗には気づいていたのですが敢えて接近しないようにしていました。
しかし雨の中で血まみれで座り込む更紗を放ってはおけず久しぶりに会話を交わす二人。店に連れて行き手当をしてやります。
亮と同棲を解消した更紗は文の隣の部屋を借りて住むように。
自由で、昔を取り戻したかのような時間が過ぎましたが、更紗の同僚の安西が一人娘の梨花を残し恋人と旅行に行ったきり帰らなくなってしまいます。
連絡もつきません。文も交えて日々を過ごす3人。
そんなある日、梨花が熱を出し更紗は仕事を休もうかと思うのですがシフトもあり悩んでいたところ文が面倒を見てくれるというので仕事に出かけました。
「変態・ロリコン」などと酷い落書きが。
実はそれ以前にもポストには文の顔写真や過去の事件を書いた貼り紙までもありました。
また週刊誌も文とその被害者の更紗、そしてさらには更紗が文に梨花という少女をあてがっているかのような記事までもが掲載されていました。
その上、店の中にまで警察が踏み込んできて梨花を保護し文も連行されてしまいます。
どこまで行っても史はロリコン・変態、そして更紗も事件の被害者、そういう世間の好奇の目からは逃れられないと悟ります。
加害者と被害者が再び接触し恋人のように生活する、そんな事はあり得ないとでもいう風潮に押しつぶされそうになる二人。
店の奥で息を潜め縮こまる文に「自分のせいで・・」と謝る更紗に文は自分のどうしても言えなかった秘密を打ち明けるのです。
それは文は「クラインフェルター症候群」という染色体異常の病気を持っており、
性器が大人のように成長しきれないのです(マイクロペニス)。
男性性腺機能低下症と呼ばれる病気でした。
それにより文は追い詰められ、文の母親の性格もあり文は徐々に大人の女性ではなく少女に意識を向けるようになったようなのでした。ただ彼は小児性愛者ではありません。
暴行したり性的関係を持とうとするわけではないんです。
完璧主義的な母親との関係で落ち込む文が公園で出会った少女、それが更紗だったのです。
文は本当に優しく、誰かを否定もしないし、大事には思っているけれど肉体関係を持つことができない恋人の谷にも自分を突き放して欲しくて嘘で「小児性愛者だ」とまで告げるような、そして警察に連れていかれそうになる更紗の手を握ってくれるような、そんな素晴らしい心の持ち主なんです。
だから泣けるんですけどね・・。
更紗に泣きながら自分の裸を晒し、自分の病気の事を告白した文を抱きしめる更紗。
そして二人は「流浪の月」のように一緒に生きていこう、事件のことでまた騒がれるなら別の場所に行き一緒にまた始めよう・・・・。
というお話です。
とにかくモヤモヤがたくさんあるのです。
このモヤモヤはもちろん自分にも沢山向ける面もありました。
更紗を勝手に可哀想と思い好奇心と軽い優越感を持って見る周囲の人々
更紗は誰にも頼る人もいないと思い自分の「思い通り」にしようとする亮
面白おかしく書き立てる週刊誌・ネット
文が犯罪を犯していると決めつけてかかる警察
映画を見ているから私たち視聴者は文の優しさや更紗との穏やかな関係を知っていますが、確かに通常の生活で大学生(19歳)が小学生(10歳)の女の子を部屋に連れてきて暮らしているというと連想されるのは幼女誘拐・殺害などという忌まわしい事件です。
実際命を奪われたりした事件も過去にも多くあり誤解はされやすい状況です。
そして誰も証明することもできない、小さな女の子はうまく説明もできないし・・・となってしまうのですよね。
映画「ヴィレッジ」に続き、正統派の正義のイケメンを超えてDV彼氏を演じる横浜流星君。
彼も粘着質で恋愛に対して特殊な考えになってしまっている人、更紗みたいな子(いわゆる逃げ場所のない子)が元カノにも居たという話を親戚に聞く場面もあるんですけどこれまたなんで、そんなに??なんですよね。
でも恋愛って程度の差こそあれ嫉妬や粘着、依存を多く含むのですよね、こちらも見方によっては彼もずっと寂しくて愛を欲しているのかもしれない。包み込むような彼にピッタリとハマっても心が苦しくならないような女性もいるかもしれないのです・・。
そして梨花の母親。趣里さんが演じていますが子供より男を取るタイプ。
もしかしたらこの後、梨花は施設に入れられてしまうのかもしれません。母親が迎えにきてくれるかもしれませんが・・おそらく「見放された」と一生彼女の心には傷が残るでしょう。
そして文の母親。内田也哉子さんが演じています。
おそらく文は第二次性徴がないということには気がついていたのでしょう。
そんな時に彼女が庭に植えた木を「育ちが悪いから」と引っこ抜いてしまうのです。そして「ハズレ」だったと・・・。
文はそれは自分に対しても言われていると思ったのではないでしょうか。
自分は「ハズレ」なんだ・・
そして「産んだ私が悪いの??」と言われたことも。
それでも母親は少年院から出てきた文のために離れを建て食事はきちんと与えてくれていました。まっすぐすぎる性格の持ち主で彼女も苦しんでいたのかもしれません。
犯人探しというのはおかしいんだけど、この話で出てくる悪というのは(原作ではわからないけど)更紗に性的虐待をした叔母の家の孝弘と、執拗に文を追いかけて部数を稼ぐために面白おかしく書き立てた週刊誌くらいでしょうか。
結局、ネットや週刊誌、ワイドショーなどを好奇心だけで不倫だなんだと見て騒ぐだけの私たちも加害者なのかもしれないとすら思って、ものすごく沈みましたね。
誰もそれぞれのバックグラウンドなどは知る由もない、そんなことまで考えていたら外を歩けなくなるというのもわかりますが、
自分にはたいした被害もないことで他人をあれこれ審査したり糾弾するというのは非常に恐ろしい「加害」であるとも改めて思いました。
善意は素晴らしいけれど「自分勝手な解釈の善意」なんてものは誰も求めていないんですよね。
可哀想、辛そう、しんどそう・・・自分を「そうじゃないからマシ」って思うための手段にしてはいけないんです。
見るもの全てが自分の思っている部分しかないと思ったら大間違いで月の裏のことなんて誰もわからないように。
せめてもの救いは更紗と文は互いに寄り添って支え合って、たとえ流浪するのではあっても一緒にいられること、だと思います。
長いし重たい話ですし、出口は見えないんだけど目は離せなくなってしまいました。
日本映画にしては「カラリ」と湿度低めな美しい映像も良かったと思います。
浮上するのに2日もかかってしまった・・・。
元気のある方、観てみてくださいませ。